ナイト・オン・ザ・プラネット

ジム・ジャームッシュとの出会い



あらすじ
***
世界の5つの都市のタクシーの中で
同じ時間に起こる出来事を繋いでいく、
「ミステリー・トレイン」のジム・ジャームッシュ監督・脚本作。

今回は製作もジャームッシュ自身、
エグゼクティヴ・プロデューサーはジム・スターク、
撮影は「ワイルド・アット・ハート」のフレデリック・エルムス、
音楽は「ダウン・バイ・ロー」のトム・ウェイツが担当。


〈ロサンゼルス、午後7時7分〉

ワゴン・タクシーの運転手コーキーが乗せた客は
キャスティング・エージェントのヴィクトリア・スネリング。
新作の女優を探すのに苦労するヴィクトリアは、
乱暴な言葉使いだが生き生きとしたコーキーに映画に出ないかと誘うが、
彼女は整備工になる夢があるから、と断わる。
ヴィクトリアは残念そうに、しかし少しうらやましげに見送る。



〈ニューヨーク、午後10時7分〉

寒い中、若い黒人の男ヨーヨーが
やっと拾ったタクシーの運転手ヘルムートは、
東ドイツからの移民で今日が初仕事。
運転もろくにできず、たどたどしい英語を喋る
ヘルムートにイラつくヨーヨーだったが、
言葉をかわすうち、昔、道化師だったという彼に打ち解ける。
夜道で会った妹アンジェラを連れてヨーヨーは家へ帰り、
ヘルムートは夜の街へと消えてゆく。


〈パリ、午前4時7分〉
酔客に腹を立て彼らを追い出した
コートジヴォアール人運転手イザークのタクシーに、
盲目の若い女が乗り込んでくる。
道順を指図し、トンネルに入って「この道じゃないわ」と注意する女に
ムッときたイザークは「俺の肌の色が分かるか」と絡み、
女はすまして「私は色を感じるのよ」と言った上にイザークの出身地まで当ててしまう。
目的地に着き、ロワーズ河岸を歩く女の耳に、
車が衝突する音と「お前は見えてるのか!」とイザークを罵る声が聞こえる。


〈ローマ、午前4時7分〉
無線相手に喋りまくっていた運転手ジーノは神父を乗せる。
勝手に懺悔を始めたジーノの破廉恥な言葉に
心臓の弱い神父は薬を取り出すが、ジーノの急ブレーキで落としてしまう。
更に続くジーノの言葉に神父は逐に心臓が止まってしまい、
ようやくことの重大さに気づいたジーノは死体を降ろして公園のベンチに座らせ、
開いたまま死んだ神父の目に自分のサングラスをかけて逃げ出す。


ヘルシンキ、午前5時7分〉
雪の街で運転手ミカは、酔いつぶれた男アキと同僚の労働者2人を乗せる。
アキにとって今日がどんなに不運な1日であったかを説明する2人に、
ミカは自分の体験を語り始める。
やっと生まれた赤ん坊が早産で、1週間も持たないと医者に宣告された。
ミカと妻は愛情を押し殺していたが、赤ん坊は小さな体で生き続けた。
「あなたは間違っている、あの子を愛してあげましょう」
愛情を注ごうと決心した翌朝、赤ん坊は息を引き取った。
2人は悲しい話に啜り泣き、ミカを抱擁して車を降りていく。
残った酔っ払いアキの無事を見届けて、ミカのタクシーは雪の街路を走り去る。


***


4つの世界の13人が主人公。
それぞれの世界でタクシーという狭い世界の中で展開されるストーリー。


テンポよく、且つ、それぞれに味わいのある話に引き込まれる。
LAのタクシードライバーを演じるウィノナ・ライダーが綺麗。


個人的にはパリの話が一番面白かった。
”色を感じる”という行為。
みることに頼らず、別の感覚で味わうそれはとても魅力を感じる。


この中で唯一ハートウォーミングなのは、
ニューヨークが舞台の話だろうか。
人々が打ち解け、リラックスした空間は
自分自身もまるでその空間にいるように満足できる。


この作品の全体的なアイロニックな雰囲気が、
とても心地よかった。
このくらいの皮肉さが、いい。



誘惑や思惑、欲望や葛藤などを抱く人と
他人のそれに関係なく生きる人の姿。
ローマはドン引きせずに笑ってみるシーンです。
あれはギャグ。羊て、あなた(笑



ヘルシンキで静かに日の出を迎える。
あくまで幻想的で、でも誰にでも来る現実の朝。



ナイト・オン・ザ・プラネット
Night on Earth
1992
ジム・ジャームッシュ