ブラディ・サンデー

1972年に起きた北アイルランドでの「血の日曜日事件」を題材に、ドキュメンタリーチックな作風で作られた映画。久々にレンタルしたものでアタリを引いた気がする。


カンヌ映画祭金熊賞サンダンス映画祭観客賞受賞。


あらすじ
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1972年1月30日、日曜日。北アイルランド、デリー。これまで長年に渡って様々な差別や迫害に苦しめられてきたカトリック系住民はこの日、差別撤廃を求めてデモ行進を行なうことに。

“平和的な行進”にもかかわらず、政府は多数の軍隊を投入、過剰な警備を行なう。やがて若いデモ参加者の一部には興奮を抑えられない者も現われ、主催者のコントロールが及ばなくなっていく…。
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北アイルランド紛争の絶頂期1970年代に起こったBloody Sunday(血の日曜日事件)を題材に作られているこの映画は、全編アイルランド側の視点で作られている。話の中心となる人物は公民権運動を推し進めていた政治家アイヴァン・クーパーで、彼は差別の及ぶカトリック系住民を守ろうとするプロテスタントの政治家だった。当時、彼だけでなくカトリック系住民に対する差別が加速化し黙視できないというより、カトリック系住民や一部プロテスタント系住民にとっては無視できないトピックになっていた。



カトリックの差別具合がどのようなものかというと、就職は下働きがほとんどで公務員はプロテスタント系住民しか受け入れなかった。たとえば、住民の9割がカトリックという場所でも公務員は他1割のプロテスタント住民で構成されていたりなど。カトリックプロテスタントの差別は政治の世界にまで及んでいた。参照⇒[http://www5.ocn.ne.jp/~kanebon/bstbswanaze.htm:title=http://www5.ocn.ne.jp/~kanebon/bstbswanaze.htm
]

アイルランド、特に北アイルランドでは1960年後半のある事件をきっかけとしてプロテスタントカトリックの抗争が激化するのだが、それを重く見たイギリス政府は「インターンメント」(非常拘禁法:逮捕状なしに容疑者を逮捕し、無実の者まで投獄・不当な拷問をかけられた)というカトリック系住民に対して不利な決まりを作る。この律のせいで、北アイルランドだけで350人のナショナリストカトリック系住民)が逮捕された。この一連の流れにより、カトリック系住民で構成されるIRA(アイルランド共和軍)への加入者が増加することとなった。




そういった歴史的な動きの中、1972年ブラディ・サンデーが起こる。その日はクーパー率いる公民権協会が主催した公民権運動のデモ行われていた。穏やかに進むはずだったデモが、武装したイギリス軍の発砲により惨事に変わった。14名が犠牲となり、13名が負傷した。その後、ダブリンのイギリス大使館の焼き討ちが起こるなど対立は激化していくこととなる。



で、映画の内容ですがワンカットが長くて、本当にドキュメンタリーを観ているよう。映画は初め、クーパーの動きに注目していて、中盤で軍・デモ隊、最後は遺族・クーパーに重きが移動している。


イギリス人は忘れたい過去で、アイルランド人にとって語り継がれる過去であるというこの事件を、監督はイギリス・アイルランド双方の視点で見ても偏りがないように作ったらしい。起こったことをそのまま描いているという。イギリス人はこの映画見たいと思うのだろうか。観たところでどのように思うのか気になる。まぁでも感想聞いたところでだいたいどんなものか察しはつくが・・・


この映画は当時の経験があるアイルランド人、そしてイギリス軍役には元イギリス兵が配役としてついているためか臨場感というか作り物な感じがあまりしない。撃つべき敵もいないのに発砲し死者を出したイギリス軍の現場の動揺や、目の前で無防備な仲間が撃たれ死んでいく様を見ておびえる市民の様子が細かい。仲間の遺体の上に、デモで使っていた公民権運動なるものが書かれた旗をかぶせるシーンはなぜか見ていて辛かった。


なぜ殺されなければいけないのか、どうしてここまで痛めつけられるのかというような叫び?が聞こえた気がした。すごい痛々しい感じの、訴えてくるような何か。明らかにイギリス軍の不手際であるのに、社会的マジョリティの力によってそれが正当化されるっていうのがもっと恐ろしい。後にこの事件のイギリス軍指揮官は女王から表彰されるんだよねwそのおかげでいがみあいがもっと激しくなるんだよね。「ちょっと何やってんの、激化させてどうするww」って感じだけど、この行為を知ったときにイギリスのプライドみたいなのが垣間見えた気がした。


うーん、海を隔てていても隣国同士は仲が悪いのは歴史的背景はそれぞれあってもアジア・欧州共にあまり変わりないのだなぁと、この映画を見て思った。


次は「マイケル・コリンズ」を借りる予定。
これはIRAの母体であるIRBの事件を題材に書かれていて、この事件はアイルランドとイギリスの喧嘩のきっかけになったらしい。アイルランドの歴史も結構面白いほどドロドロしてるな。昼ドラみたい。




サンダンス映画祭、予想以上に侮れないかも。



原題:BLOODY SUNDAY
公開:2002
監督:ポール・グリーングラス