ファーストフード・ネイション

いのちの食べかた」と「スーパーサイズ・ミー」が一緒になった感じ。
ノンフィクション小説『ファストフードが世界を食いつくす』を基に作られたドラマ映画。もともと、ドキュメンタリーにする予定が製作が難しいとのことでドラマに変更された。


あらすじ
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アナハイムに本社を持つハンバーガー・チェーン「ミッキーズ」。


マーケティング担当のドンは社長に呼ばれ、大学が行った分析の結果、ハンバーガーのパテに大量の大腸菌が含まれていたと打ち明けられる。


ドンは調査を始めるが、そこには工場の衛生問題、店舗における店員の意識、さらには移民問題、環境問題など、様々な要因が渦巻いていた。

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ファーストフード業界(以下FF業界)の裏の裏をコメディタッチでかいてるのかと思いきや、以外にシリアスな映画だった。この映画では、FF業界に流通する『パテ=肉』にスポットを当て、そこに関わる人たちのドラマを描いている。


いのちの食べかた」では、屠殺の現場、そこで働く従業員たちの日常などの毎日行われている肉の生産シーンが「必然だからこそ行われている」作業で、その現場や作業が「事実」として受け入れることができた。嘲ってはいけない事なんだ、という風に。


でも、この映画では密入国者視点で現場や作業をみることになる。そのためか屠殺場という場所がとても閉鎖的でプチ権力社会であって、社員も工場も精神衛生が良くない。我慢できない工場の臭いまで伝わってきたように思う。「いのち〜」では血の臭いしかしなかったのに。


主人公は三人いる。FF業界で働くドン、メキシコから密入国してきた若者、FF業界チェーン店でバイトする女子学生。彼らの話はそれぞれ「肉」を中心に進んでいく。どの登場人物にも共通するのが「真実は実に悲惨であり、何も変えることが出来ない無力の自分がいる」ということ。




3人の結末はどれも頭を抱えてしまう。なんだかものすごく重いエンドで面を喰らった。DVDを見た感じだともっとポップでコメディ万歳かと思ったのに!でもこの現実(ドラマの部分はフィクションだけど)を嘲り飛ばすぐらいの元気がなければ生きていけないね笑



移民のこととか、密入国者とか日本ではあまりクローズアップされることがないから関心も高くないけど、この映画見ると「貧困大国アメリカ」が一部再現されているような印象を受けたよ。



いのちの食べかた」「ファーストフード・ネイション」とかこうした食物の生産現場をドキュメンタリーチックに映し出す映画を見ると、現実を理解することができるんだよね。でも、それだけしかできない。ワタシはこういった映画を見て菜食主義者になるなんて革命的なことは出来ないし、もっと放牧をしようよ!自由にしようよ!と思ったところで効率重視の現実を変えることは出来ない。どんなに美味しい料理を食べてても自分たちの食卓は牛肉生産ラインの延長線上にあるんだって思い知らされる。



ファーストフードがダメだとかイイとかそういう短絡的な話じゃなくて『ファーストフードを取り巻く状況が、食い物を生産する現場がどうなっているか』をそれぞれの視点から描いていて面白かった。それを消費する側の人間のあり方も描かれてたら面白かったかもね。登場人物全てが生産、物流、販売側の人間だったから。



ファーストフード・ネイション
原題:Fast Food Nation
公開:2008
監督:リチャード・リンクレイター