short peace 「火要鎮」

燃え上がる恋の華。


あらすじ
***
舞台は、17世紀の江戸の町。
商家の娘のお若と幼馴染の松吉は、たがいに惹かれあいながらも、
その胸の内は明かさなかった。


火消しに憧れる松吉は、江戸で火事がある度に家を飛び出し、
ついには勘当され火消しとなる道を選ぶ。


松吉が家を出た結果、ふたりは離ればなれとなってしまった。
少し経ち、年頃になったお若に縁談の話が持ち上がる。

しかし、お若は松吉への想いを忘れられずにいた。

祝言を目前に控えた夜、ふとした不注意からお若の部屋の行燈から火が出てしまう。
炎を観て、松吉への想いを確かめるお若。

その情念は、大きな炎となって江戸の町へと広がって行くのだった…。

(パンフレットより抜粋)
***

久しぶりにニヤケと鳥肌が起こった作品。
そのシーンは、ちょうど松吉はじめとする火消し組の皆さんが、
はしごを使って屋根に登るあたり。
リズミカルだけど緊張感もあり、計算されたアングルとタイミングが魅せる
火消しの動きと大火の様子がとても美しかった。


今作の時代考証については、他のブログでもきっと声高に叫ばれるだろうから割愛。



ニヤっとしたシーンは多くて。
お若の縁談のくだりでの、嫁ぎ先の親の顔を良く観たりすると
思惑が手にとってわかるようで面白い。
親父はスケベな顔で、、母親は所作を厳しい目で観て品定めをしている。
今も昔も義父や姑の目つきは変わらないと言ったところか。
(私自身の縁談など、まだ遠い宇宙の話だけど)


燃え上がる恋の炎が、江戸の大火に重ね合わされていて。
少なくとも、私はこうした韻を踏むような、言葉の掛け合わせのような作品は好き。


しかし、火消しのあの豪快さは痛快でした。
一見して大黒と思われる柱を即決し、大店だろうとなんだろうと膠も無く取り崩す。
粋な仕事ぶりです。


それ以上に衝撃だったのは「いろは48組」(お察しください


江戸文化には決して明るくはないですが、
時代劇ものが好きな自分として感想を言うならば
「いいぞ、もっとやれ」。


絵巻物風な作品に、どこか古風な印象を抱きながらも、
内容は現代人だからこそ憧れる儚い恋物語
身分的に「叶わぬ恋」が叶わぬ現代だからこそ
その魅力が一気に現れている…と言ったら言い過ぎか。


大友氏の作品作りの丁寧さと、
彼の他作品に通じる「かっこよさ」が混在した
心地の良い作品でした。


火要鎮
大友克洋
2013