カッコーの巣の上で

人間は何かと記念ごとが好きだが、私も然りである。
10月3日の今日の映画レビュー



あらすじ
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刑務所の強制労働から逃れるため精神異常を装ってオレゴン州立精神病院に入ったマクマーフィは、そこで行われている管理体制に反発を感じる。

彼は絶対権力を誇る婦長ラチェッドと対立しながら、入院患者たちの中に生きる気力を与えていくが……。60年代の精神病院を舞台に、体制の中で抗う男の姿を通して人間の尊厳と社会の不条理を問う。

K・キージーのベストセラーを、チェコから亡命してきたM・フォアマンが映画化した人間ドラマ。
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カッコーという鳥は、自分の卵を他鳥の巣に産みつけちゃう賢い鳥。卵から孵る速度も宿主のものより速く、産まれてすぐにまず宿主の卵を落とす。そういう鳥。


この映画は精神病院が舞台になっていて、あらすじの管理体制は女帝ラチェッドが敷いたもの。ラチェッドは婦長で本来彼らのケアや精神安定のための計らいをしてあげるのが本来の仕事のはずなのだが、彼らの精神不安定を上手く利用して「自分がルール」かの如く管理しちゃってる人。それを見たマクマーフィは反感を覚え、次第にラチェッドへ対抗していく。ちなみにマクマーフィはいたって普通の精神状態の人間で、ただあらすじのように「精神異常を装って」精神病棟に来た変わり者である。変わり者って言うか、まなけものっていうか・・・ただ、人間が人間として生きられないことに腹立たしさを覚え、それに立ち向かおうとするとてもとてもマトモな人間である。


マクマーフィ以外の精神病棟に入院中の患者は精神不安定な患者が多い。でも、インディアンの血を引くチーフは偽ってたんだよね。マクマーフィが見抜いちゃうんだけどさ。婦長の逆鱗に触れる釣りも含め、野球中継やったり、クリスマスでパーッとはじけちゃったり。そのつど首謀者マクマーフィと女帝ラチェッドの言い争いがあるんだけど女帝の「規則ですから」的なお役所系な会話がすごい鼻につく。いや、耳?どっちでもいいけど。


マクマーフィのキャラ以上にラチェッドも濃いけどね〜。壊れていく規則や自分に対する絶対的な「力」みたいなのを死守したいときって人はあらゆる手段使うからね。それが一番怖かったりする。ラチェッドも然り。


一番印象に残ってるのはクリスマス。外出禁止令が出てる中、外から女友達呼んでワイワイやり始める。守衛もワイロ使って丸め込む。女友達とチーフ、マクマーフィで逃げる予定だったのにウィスキー飲んで伸びちゃったり。最後のほうのシーンだったと思うけど、映画の最初と比べてマクマーフィの言うことを次第に飲み込むようになった患者たちの騒ぎっぷりが半端なく素敵。素敵って言葉は語弊があるかもしれないけど、今までの封鎖的な空気から一気にはじけた感じの演出がすごいいいなーって思った。未開封の炭酸水を、一気に振って開封した感じ。


でも、ウィスキーで伸びちゃったのがマクマーフィの運命としてはいけなかった。クリスマスの罰として、彼はロボトミー手術受け、人為的に脳損傷を与えられてしまい、以前の彼とは別物になってしまう。それを知ったチーフは彼を殺し、噴水を取り外して窓をぶち破り逃げる。one flew over the cuckoo's nest.


どのあたりからだろう、引き込まれ始めたのは。たぶん、野球中継の辺りからかな。「この映画は久々に面白いぞ」って思ったような気がする。笑 でも「いい映画だ」って言われるのよくわかる気がする。その時代に生きていたわけじゃないけど、「60年代の精神病院を舞台に、体制の中で抗う男の姿を通して人間の尊厳と社会の不条理を問う。」っていうのがわかった気がするもん。60年代の病院が舞台だけど別にこれ今でも起こりえるよね、題材変えてもさ。ただ、この映画だったからこそみんなに伝わったんだろうね。「人間の尊厳と社会の不条理」ってやつがさ。


何か悪さをすれば、患者に電気ショック!だって言ったところで通じる人間たちじゃないんだもの♪っていう感じ。「え、こんなんありなの?」って見てたわ・・・あれはショックだった。いやロボトミーのシーンも相当ショックだったが。人間って自分以外の人間がどうなってもいいって思っちゃうところが怖いな。マクマーフィ凄いよ、そういう意味でも。メシアだろうな、患者たちにとっては。60年代だとさすがアメリカといっても、精神病者に対する理解なんて浅いものだったろうしなぁ。


精神病とは違うけど、日本ではこれに近いのがハンセン病なんじゃないのかなぁ。精神病院と書いてあるけど、ここに居る人たちは浮世から隔離されてるわけで・・・日本のハンセン病の歴史もそれに近いでしょ。前に国立ハンセン病資料館にいったけど、ここでもハンセン病患者が国家の名の下に家族親族から強制隔離・治癒が出来ない病気ということが前提の共同生活。なにか罰せられるときは、とても人間が入るような場所ではないところに真冬だろうが真夏だろうがぶち込まれるっていう・・・あーなんかこれ話すと長くなるからやめよ。とりあえずヨシダ的に似てるってことです。



個人の力発揮しても、サポートが不十分だと強い力に押しつぶされますよね、そうですよ、そのとおりだよ。権力・金・力があれば人間何でも出来るんだよ。ましてやそれが組織となるともっとタチが悪い。夢や希望だけじゃダメなんだ。なんかいろいろ考えさせられたなー、この映画。一緒に見ていた友人は事の顛末にびっくりしすぎて「え、説明して」とかのたまってたけど。笑それぐらいいろんな意味でびっくりな映画。「この人たちだって、みんなでここまで出来るんだ!」って思った矢先の失望、無念さ。チーフは喋れないマクマーフィを見て何を感じ、窓から出て行ったんだろう。


そしてこの監督はチェコから亡命したということでちょっと調べてみた。亡命した年の前にチェコスロバキア社会主義国になったり、プラハの春とかでソ連といろいろあったり社会情勢不安定だったんだね。(チェコスロバキアの歴史見てるとほとんど情勢不安定だけど)そういう監督だからこそ、「人間の尊厳と社会の不条理」っていうテーマで映画とれたのかもね。マクマーフィは「自由」を願ったチェコ国民の現実で、out of the nestを果たしたチーフが国民の夢であるということだったのかいな。深読みしすぎか、まぁはっきりいって良くわかんない。調べ不足。




この映画、中盤の盛り上がりに対しての後半のあの展開。「ポカーン(AA略」ですよ。持ってかれる。本当。でもいい映画。頭使わないけど、心使う。見終わったらやるせなくなる。こういう映画は好き。


Vintery, mintery, cutery, corn,
Apple seed and apple thorn;
Wire, briar, limber lock,
Three geese in a flock.
One flew east,
And one flew west,
And one flew over the cuckoo's nest.
(Mother Goose)



カッコーの巣の上で
原題:One Flew Over the Cuckoo's Nest
公開:1976
監督:ミロシュ・フォアマン